父の帽子
北京五輪で壊されてしまう前に見ておこうと昨年、中国の胡同(ふうとん)へ行った。胡同とは、大小の石造りの家が入り組んだ迷路のような裏路地の総称である。落とし便所が多い故、糞尿の匂いがし、子供が遊び、野菜を積んだ屋台が行き交っていた。魯迅の小説のようだと思った。その胡同が舞台と知って、この小説を読んだ。読んで初めて解ったのは、胡同はスラムではなく、文化大革命前は庶民が和やかに清潔に暮らす住宅街だっということである。読んでいるあいだ私は六十年代の胡同の住民になれた。主人公の少女、柚ちゃんの視点で街角にいられた。胡同の女親分のような不良少女、ターラーマーは、映画「太陽の少年」に登場したヒロインを思わせる。時の彼方に消えていった、美しい不良少女の面影は、よみがえってきた映画の印象とともに小説の中に浮かび上がり、今は廃墟となった胡同に、ひと筋の光がさしていくようだった。 |
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